最低賃金の撤廃について

はてなブックマーク - 最低賃金制の廃止について (内田樹の研究室)

人々が最低賃金を撤廃することに反対する理由は良く分かる。本能的に、自らの既得権益を守ろうとしているのだ。もっとも、それが機能しているように思うのは、あなたの賃金が、現在の最低賃金よりも上だからだ。


仮に、次の政権が、最低賃金を時給1000円に上げたとしよう。それでも、あなたにはあまり関係がない。時給900円あたりで働いているひとが何人か、クビになるだけだ。もっとも、そのうち何人かの雇用を維持するために(時給1000円を払うために)、あなたの給料がほんの少しだけ下げられるかもしれない。まあ誤差の範囲と言ったところだ。


やがて、最低賃金が時給2000円になった。時給2000円未満で働いていた人々のうち多くが、路頭に迷う。あなたは、経験を重ねることで、自分が2000円以上の時給を貰えるようになっていたことに感謝する。そして、もはや誰も、かつてのあなたのように、2000円未満の給料を貰いながら同じ経験を積むことはできない。つまり、あなたの職は安泰だ!


ところが、何を血迷ったのか、政府は最低賃金をなんと3000円にすると言い出した。残念ながらあなたはもはや働けない。時給2000円でいい、いや1500円でいいから雇って欲しいと言っても、まともな会社は法令違反を恐れて雇ってはくれない。(本当はあなたのスキルなら2000円は安い買い物なのだが) そしてあなたは、最低賃金を下げろというデモに参加することになる。


もちろん、こんなことは現実には起こらない。多くの人が職を失ってしまうような不人気な政策を、政府は取らないだろう。職を失うべきは、あなたではない。最低賃金付近で働いている、経験の少ない若年労働者なのである。


あなたにとって最良なのは、あなたの時給より少しばかり、最低賃金が下である場合だ。そうすれば、あなたの職を脅かすライバルたちを蹴落とせる。おそらく大多数の人にとって最低賃金は低すぎる。もっと上げてしかるべきだろう。


参考
第一生命経済研究所>熊野英生の金融市場の謎を解く「デフレは日本人の時給にも進んでいる 〜勤労者平均・時給2,228円は14年ぶりの低水準〜」(PDF)